「実は父親が若い頃開業してね。僕もその会計士事務所で働いてるってわけ」

 1番さんが口にした事務所の名前は、成人なら誰だって知っているだろう事務所。

「あの大手会計士事務所って、あなたのお父様の事務所なんですね!」

 思わず驚いてしまう。

 過去の私なら、彼のキラキラとしたキャリア、華やかな血縁に驚いていただろう。
 そしてそれになびいて、一発で心惹かれていただろう。

 でも今の私――少しは自分というものを持つようになった私は、違う。
 私が驚いたのはほかでもない、平然と得意顔で自分の華やかなキャリアと父親を自慢しだしたことに対してだ。

「僕は小学校からK大学附属なんだ。そのまま大学に進学する手もあったけど、親父がどーしてもっていうもんだから、Z大に進学したよ」

 Z大は誰もが知る、日本の最難関中の最難関大学だ。

 歴代何百人もの官僚や国会議員、研究者を輩出している。



 それって、一応自慢?


……とはさすがに言えない。


 っていうか、お父さんが好きなんだな、この人。