スマートに二人分の支払いを済ますと、翔馬はタクシーを探す傍ら、私に尋ねた。

「連絡先、教えてくれるよね?」

 こくりと私は頷き、スマホを鞄から出す。

 始まりたての恋の熱に酔わされながらも、アプリを起動し、翔馬と連絡先を交換する。


 SNSの名前は「SHOHMA」。

 苗字はその場では聞けなかった。

 翔馬がスムーズに流しのタクシーを拾うと、私を座席に導こうと手を差し伸べた。

「今日は、ここまで。気を付けて帰ってね、お姫様」

 ひょっとして体目的なんじゃ……ワンナイト・ラブになってしまうかも……


 という心配が杞憂に終わったことで、私は勝手に翔馬を「いい人」にカテゴライズしていた。


 そして必要以上に気を許してしまった。


 それが翔馬の常套手段だとは、ちっとも疑わずに。




 ありがとう、と私がお礼を述べようとした刹那、ぐいっと翔馬は私の腰に手をやり体を引き寄せ――




 ちゅっ。




 私の額に、軽く唇を押し当てた。

「……えっ!?」

 私の唇は震えていた。

 今この瞬間、何が起こったのか、酒の回った頭では到底処理しきることなど不可能だった。

 当惑する私をよそに、翔馬は私一人を後部座席に乗せ、

「じゃあ、またね」


柔らかい微笑みを浮かべ、手を振り、タクシーのドアを閉めたのだった。

 タクシーが発車した次の瞬間には、その微笑みは勝利の高笑いになっていたとも知らず、私は暗いタクシーの車内で、乙女さながら高鳴る心臓にそっと左手を添えた。