「女性を馬鹿にしているの?」

 信じられない。

 そんな理屈を、平然と私に語って聞かせるその神経。
 時代にそぐわない歪み切った倫理観。
 腐りきった因習を平気で受け取り自分自身で実行する判断力。

 ありえない。

「ねえ、返事してよ。そんなの、許されないよ」
「この村では許されるんだよ」

 ひるんだ表情からするに、きっと頭のどこかでは自分の行いがおかしいとは思っているのかもしれない。
 彼だって現代人だ。自分の口にする言い訳が通常は社会で罷り通らないことくらい、理性ではわかっているはずなのだ。
 だが、彼は恋愛をやめない。
「この村の慣習」に甘んじ、サトミとの関係をずるずる続けようとしている狡猾さ――。
 彼は家の人間にさえ許されれば何をしても構わない、と考える人間なんだ。
 たとえその因習によって妻となるはずの人間を傷つけることになろうとも。



「結婚の話はなかったことにしてください」


 それだけを告げると私は車に乗り込み、元来た道を引き返した。

 本当は、石でも投げつけてやりたかったけれど。