翔馬から溢れ出るちょっとした色気に、私は負けてしまった。

 繰り返すが、要するに判断力と理性の低下である。特にアルコールが入った身には、しばしば起こりうる判断ミス。

「どこで飲む?」

 一軒目ですでに火照ったピンク色の頬は、きっと翔馬には色っぽく映ったのかもしれない。

 わざわざチークを塗りなおす必要もなかった。

 自然な頬の赤みは、化粧をも凌駕する……のかもしれない。


 実のところ、初めて出会った夜の翔馬は、紳士だった。
 いきなりホテルへ連れ込むような男ではない――

 だからこそ、余計に気を抜いてしまったのだろう。



 雰囲気のいいワインバルで、翔馬と私は同い年ということが判明した。

「運命だね」

 互いの共通点が見つかるたび、翔馬はそう言って私をいい気分にさせた。

 こんなセリフ、今考えれば寒気がするほどおぞましいけれど、あの頃の私はとにかく男を見る目がなかった。「運命」というキラーワードに、胸がどきどきするばかりだった。

 子供のころ流行ったテレビ番組や音楽、好きなお酒、最近見た映画の話……

 とりとめもない話題に私たちは花を咲かせた。

 翔馬が出身地や仕事や家族の話をしないことには、一切気づかずに。



 深夜0時になろうとするころ、翔馬は席を立ち上がった。

「もう遅いし、送って行こう」

 すっと私に手を差し伸べたその姿は、さながら王子様のよう。

 翔馬の手を素直に取り、席から立ちあがると、もう何杯飲んだかわからない私はついよろめいてしまった。

「危ないっ」

 私を正面から抱き留め、そのまま翔馬は背中に手を回し、私をぎゅっと抱きしめた。

 お酒でふわふわする頭に、電流が走る。

 温かい腕に、コロンの香り。

「気を付けてよ、お姫様」

 そっと私をまっすぐ立たせると、翔馬はにっこり微笑んだ。




 その時、当然、私は恋に落ちた。決定的に、間違いなく。