背後からいきなりブロックで殴りかかられたかのような、激しい衝撃。

 好きな男とは、結婚できない。
 幸せな結婚をするなら、好きではない男と。

 二十代半ば女子には、すぐには受け入れがたい未来。

 そんな未来、すぐには描けません……。

「嫌だと思ったでしょ?」

 私の本音が聞こえたのか、先生が私の顔を覗き込んだ。

「それは今のあなたに男を見る目がまだついていないからよ? 男を見る目を磨けば、クソ真面目な男の良さがわかるってもんよ」

 ちょっと私を馬鹿にしたかのような物言い。
 ……だけど、それは真実を言い表しているようで、反論の余地はない。
 まあ、占い師に反論する人なんて、ナンセンスだけれど。

「具体的な未来を言わせてもらうと、来週の土曜の正午過ぎ、あなたは運命の男性に出会えるかもしれないわ。でもそれはあなたが受け身でいれば逃してしまうチャンスよ。能動的に……たとえば出会いの場へ自ら足を運べば、そのチャンスをモノにできる。方角は自宅から南東の場所へ行きなさい」

 即メモ。
 来週土曜の正午。
 能動的に 南東へ。
 

 そこで私の鑑定時間は終了した。
 ほんのわずかな時間ではあったけれど、心にグサグサくる言葉ばかり。
 特に――

“今のあなたに男を見る目がまだついていないからよ?”

 やっと自分に自信を持ち始め、仕事も軌道に乗ってきた25歳。
 でも男を見る目が養われたかというと、まだその点には自信は持てずにいる。
 ナンパは全部断る。初対面の男にはついていかない。一人で飲み屋へ行かない。
 その程度の、自分を大切にする方法だけは最低限身に着けた。
 しかしそれは男性をジャッジすることとはまた別問題なわけで。
 
 恋のリハビリをそろそろ始めるべきかな……。

 鑑定所を出た私は夜空を見上げた。
 厚い雲がかかっていて、明るい星は見えない。
 私の希望の星も、まだ見えない。

 チャンスは前髪を掴め!とよく言う。

「今度の土曜、素敵な出会いがありますようにーーーーー!!!!!」

 雲の向こうにあるはずの星々に、願いよ、届け!

 そんな思いで私は呟いた。
 繁華街のど真ん中で。
 人目もはばからずに。