「でもそれって、まともで素敵な男に出会いたいって願望の裏返しだよね?」
 的を射た指摘に、私ははっと顔を上げた。

 どういうわけか、友人たちは互いに顔を見合わせ、頷き合っている。
「そんなひばりに、私たちからプレゼントがあるの」
「なんと、友人思いの我々は、ひばりに誕生日プレゼントとして、」

「「「超有名占い師の鑑定予約を、今日の20時に取りました!」」」


 友人が告げた占い師の名前は、私たちの世代なら誰だって知っているであろう、テレビや雑誌で引っ張りだこの女性占い師だった。
 特に恋愛運の的中率が高く、占い師にしては珍しく具体的な鑑定結果を出すため、なかなか直接鑑定が予約できないことでも知られている。
 その高名な占い師の鑑定予約を、彼女たちは1年前から取ってくれていたという。このレストランから車で10分で鑑定所に行けるそう。

 あの占い師に占ってもらえる――思わぬ誕生日プレゼントに、胸が高鳴った。昔から占いは割と好きな方なのだ。

「これからのひばりの恋と結婚を占ってもらわなきゃね」
「2年間でキャラ変わったひばりが、これからどう生きていくべきか、私たちも知りたいのよ」
「ひばりの家の変わりよう特にすごいよねー。全然本棚の中とか違うし」
 レストランからタクシーでの移動中、とにかく「ひばりは変わった」と言われ続けた。

 最後の言葉は特に言えているかもしれない。

 翔馬と別れるまでの私の家の中、特に本棚は、ファッションと美容関係の本しかなかった。
 基本はファッション誌、それからダイエット方法やメイク術の単行本しか置いていなかった。
 それがあのクズ男と別れてからというもの、内面に磨きをかけるべく、本を買いまくり読みまくり勉強をしまくった。
 その痕跡が本棚に露骨に表れている。


 まずは現在勤める商社に転職するために買った、経済と英語の教本。英会話スクールには現在も休みごとに通っている。無理はしていない。単純に、自分が新しいことを習得するのがうれしいのだ。
 それからかなりの数の自己啓発書、ビジネス本。
 女性としての品格を身に着けるべくマナー本も何冊か買い、またマナー講座にも通った。

 では美容はどうかというと。

 アイメイクは薄め、大人らしい雰囲気に変えた。ビジネスパーソンらしく、品を損なわない程度に。
 厚い化粧の代わりに、スキンケアを重視しているのだ。
 服装には前ほどこだわらなくなった。品質のいいものを、数少なく持ち、それを着まわすだけ。
 それでも人目が気にならないようになってきたのは、成長の証かもしれない。

 あれこれ話しながら、圧倒言う間にタクシーは繁華街の片隅にある鑑定所へと到着した。