「お店の中だけれどいいよね、一口くらい」
 どうぞ、と私は箱を差し出す。バカップルならばここであ~ん、とかするところかもしれないが、さすがにはばかられた。ここは公共の場所だ。それに私は知っている。バカップルほど別れやすいことを。
「ありがとう。じゃあ、一つ」
 浩太郎は遠慮がちに8個入りの中から一つ、どちらかと言えば黒っぽいものを選び出した。
「これは、ブラックチョコっぽく見えるけど、何味かな」
「説明の紙はあるけど……せっかくだし、お互い食べてから当ててみようよ」
 ほんのゲームのつもりだった。
 小学生のころよくやった、中身当てゲーム。
 決してロシアンルーレットのつもりではなかったのに――。
 こういう流れになってしまった偶然も、ひょっとしたら運命だったのかもしれない。
「じゃあ、いっせーので食べて、それから答え合わせね。半分食べて中身を確認するのは、反則だからね」
 そして、私のかけ声と共に、二人同時に一口でチョコレートを口に放り込んだ。まず鼻につんと抜けるお酒の香り。奥歯で噛み、これはブランデーの混じったキャラメル系かなとすぐ判断した。

……ブランデー?

 お酒が入っているチョコレート?

「あ」

 しまった、と思ったときには、遅かった。

「浩太郎、お酒が――」