「浩太郎は、何か好きなお菓子はあるの?」
 あまり今まで交わしたことのない、スイーツの話題を振ってみる。

 うーん、と浩太郎は考えて、
「チョコレートかなぁ。研究の合間の糖分補給用に、研究室に箱でたくさん置いてる」

「やっぱり頭使う仕事の人って、糖分摂っても太らないよね。脳が消費するっていうもんね」

 そこでふと、何かを忘れている気がした。

 チョコレート?


「あ、そうだ」

 鞄の中をごそごそかき混ぜ、私は宗方さんから昼間にもらった箱を取り出した。

「これ、チョコレートなんだけど、職場の人から今日もらったの」
「出張土産とか?」
 そう聞かれて一瞬答えに詰まった。
 でも考えてみれば、浩太郎は宗方さんを見たことがあるんだった。

「前に一緒に中華食べに行ったとき、私の職場の人がいたでしょ?」
「……ああ、あの男性」

 苦笑いをしながら浩太郎は頷いた。


「あの人がね、私に、あの時のお礼にって。律儀すぎるよね……」
 こちらも苦笑いで答える。浩太郎は、なんと答えたらいいのか分からなかったのだろう、ただ苦笑いのまま首を傾げていた。

「これ、一緒に食べてみない? まだデザートも来ないし、一口試してみようよ」
 私は言い切るやいなや、包みをガサッと乱雑に剥がし(ほとんどビリビリだった)蓋を空ける。

「……豪快ですね」
 あ、浩太郎、引いてる。