残業なしの定時上がりでエレベーターを降りていくと、ビルの正面に浩太郎がスーツ姿で待っていてくれていた。
 よかった、見た目には大きな変化はない。
 これでもし服装がギャル男みたいになっていたら、どうしようかと思ったのだが……。

「お疲れ様」

 私がビルから出てくるなり、ねぎらってくれる優しさ。
 こういうところについては、本当にいい彼氏だと思う。

「けっこう待った?」
「ううん、そうでもないよ」

 お、こんな会話を交わすと、ごくごく「普通」のカップルのようではないですか!
 浩太郎は浩太郎なりに、「普通の彼氏」っぽくなろうとしているのかもしれない。
――そんな風に甘い期待を抱き、私の体はふわりと浮く。
 浩太郎はこの先、チャラ男でもなくクソ真面目男でもない、ちょうどいい感じの素敵な彼氏になっていくのだ。
 そうやって「いい男」を育てられるのが「いい彼女」の証拠って、よく言うもんね!
 ははは、楽勝!楽勝! これから浩太郎をぐんぐんいい彼氏、そして将来的には「いい夫」→「いい父親」に育てていくんだ!