この台詞はわたしが考えたものではない。

 どうやって誘えばいいのか、頭を捻れども捻れども捻れどもさっぱりわからぬわたしに、呆れ交じりに小神が教えてくれた台詞を、一字一句違えることなく口にしただけのことである。

「いいよ。行こう。俺が解説するよ」

 今にも飛び跳ねそうな勢いで承諾され、わたしは安堵する。これで断られていたらお年頃の女子としては結構アイタタなところであったが。

 それから松本くんと連絡先を交換し、晴れてわたしは小神に課されたミッションの第一をクリアしたのであった。

 こうしてミッションの第一段階はクリアできたものの、課題は残る。

 松本くんと二人きりってわたしは何を話したらいいんだろう。

 小神は一体どういうつもりで野球のチケットなんてわたしにくれたのよ。

 っていうかわたし野球観戦なんてしたことないからなに持っていけばわかんないし、どんな服着たらいいの?
 野球観戦でスカートってあり?
 なし?
 デーゲームだから日焼けするかも?

……なんてことを家にいる間も学校にいる間も、四六時中悩んでいるうちに、あっという間に約束の土曜日がやってきた。

 結局普段着同然のTシャツにジーパン、キャップにタオルという女らしさをアピールするにはかなりベクトルの違う出で立ちでわたしは家を出た。

 べ、別に松本くんに女の子らしさをアピールしたいなんてこれっぽっちも思ってないんだからね!

 だからこんなカジュアルど真ん中の服装にしたんだからね!

 と自分に言い訳しつつ、わたしは駅へと向かう。