「まさか!!」

 そんな下らないやり取りを耳にして、わたしを「眩しく」思う人間がこの世にいるわけがない。

 馬鹿にしているのだ。

「嘘でも誇張でもありません。心の底から松本くんはあなたをかっこいいと思ったんですよ、星野さん。あなたのその頑固さと愚かさを、彼は肯定すべきものと捉えたのです。これがどういうことか、あなたにわかりますか?」

「愚かさって……全然、ちっともわかりません」

 小神は眉根を寄せた。それから、悲しげな声色でこう言った。

「松本くんは『本当の自分の意思』とでも言うべきものを見失ってしまっているのです。

 幼いころからただひたすらに堅実さと真面目さが美徳であると教育されて育った松本くんには、もはや自分の本当の価値観というべきものがほとんど残っていないのです」

「価値観! そんな立派なもの、わたしにだってありませんよ!」

「ひょっとしたらないのかもしれません。
 でも、既成の価値観をそのまま黙って受け入れることをしない人物――そのように松本くんの目に映ったというのは事実なのです。
 私はその夜の後も、幾度か同じような夢を覗きました。
 いずれも、星野さんへの憧憬が見受けられるものでした」

「嘘でしょ……松本くんがわたしに……?」

 絶対わたしの真相を見れば落胆してしまうに違いない。

 そんな風に言われてしまうと、かえって力が入って今後松本くんとどう接したらいいかわからないではないか。

「正直、松本くんは星野さんのことをやや買い被っているように思います」

 ストレートな小神の感想。しかし小神の意見に、わたしも大いに同意する。

「どうしてこんなことになっちゃったんでしょうか……」

 はあ、と大きくため息を吐く。何だか気が重い。人から過剰な評価をされるのって、過小評価よりひょっとしたら精神的に負担なのかもしれない。

「私は、正直に言って松本くんのことがずっと心配です。松本くんの夢を覗き見た当初から、彼の人生はこんなものでいいのか、ただそれだけが心配でならないのです。松本くんの、ほとんど変わり映えのない夢をほとんど毎晩見続けることは、私にとって心的負担の重なるものでした」

「そうでしょうね……」

「私がやっと松本くんの夢から解放されたのは、その一ヵ月ほど後のことでしたでしょうか。私はある夜、またしても他人の夢の中にいました」