「見事な棒読みですが、それはさておき」

 微笑が彼の口元に浮かんでいたのは束の間のことだった。

 再び小神は視線を川の向こう岸へと投げかける。

 それは現在ではなく、過去に思いを馳せている証なのかもしれない。

 川を隔ててこちら側がわたしたちの生きる今、あちら側がかつて小神が夢を覗き見する能力を持っていた過去、といった具合に。

「私と星野さんが我が高校の食堂で運命的な邂逅を果たした一週間後の夜のことでした」

 小神の頭の中では我々の呪わしい出会いが、ドラマチックな邂逅へと仕立て上げられているということを、わたしは今ここで初めて知った。

「その夜の夢で、またしても私は松本くんの夢の中に入り込んでいました。
 幾度も侵入を重ねていると、次第に感覚で分かるんです。
『あ、たった今私は松本くんの夢の中に入り込んだんだな』と。
『きっと今夜も私は試験を放棄して野球をするのだろう』
――最初から展開など読めていましたので、その心積もりでいました。

 正直、ほとんど毎晩他人の同じ筋の夢を見させられることに対し、私は辟易していました。
 精神的に当時はかなり参っていたのです。
『仕方ない、今夜も何とかやり過ごしましょう』、そんな気分で松本くんの夢の中にいたのです」

 その時の小神の気持ちは、何となく理解できる。

 毎晩毎晩、同じ夢を見ること。

 自分の夢でさえそれはキツイことであるのに、ましてや他人の夢のそれなど、精神的な負荷は相当のものであることが推察される。



「しかしそんな私の倦怠感をも伴った予期は、その夜に関してはあっけなく外されました。それまでのパターンとは全く異なった、新たな夢が松本くんに生じたのです」



「新しい夢……ですか?」

 思わぬ展開に、わたしは自然と興味を引かれた。

 いったい、松本くんがどんな夢を見始めたというのだろう。