「ここまでの話を整理してみたんですけど、わたしにはさっぱりです」
「口に食べ物を入れている時にしゃべってはいけません」

……すんません。

 小神はテーブルマナーにうるさいのであった。

 このファミレスに現在来ている客をざっと見まわしてみても、そのほとんどが食べながら大声で会話している。

 そのせいか、小神の周囲の雰囲気がかなり異質であるように見える。簡単に言うと、客層から浮いているということなのだが、そんな風に一言で言い表すことができるほど、自体は単純ではなかった。空間が歪んでみる、とでも言えばいいのだろうか?

 ぼんやり小神の手つきを眺めていると、実に庶民的なレストランのはずなのに、その輪郭さえも定かでなくなってくる。超現実的な感覚に呑み込まれそうになる。

 いかん、いかん。

 わたしは慌てて首を左右に振った。するとファミリー・レストランの輪郭が――現実の輪郭が立ち現われた。

 平常心に戻ったわたしは、ふとこう思った。

 小神の家は結構礼儀作法やマナーにうるさい家庭なのかもしれない。教育パパと教育ママによって育てられたボンボンなのかもしれない、と。

「先輩の家って結構礼儀作法にうるさいんですか?」

 今度という今度こそ、わたしは食べ物を呑みこんでから発話した。これで文句は言われまい。

 小神は少し考えるそぶりをしてから、

「両親はどちらも最低限のテーブル作法だけは身につけなさい、とよく口にしていましたが、それほど特別厳しく躾けられた記憶はありませんね」

「それを一般的には“礼儀作法にうるさい”と表現するのではないでしょうかね……」

 小神にとっては作法如きのものは、何度も注意されずとも容易く身に付けることができるものだったのだろう。