「夢を通して他人とつながることができる――このような発想を星野さんは聞いたことがあるでしょう。何も難しい心理学の本にだけ書いてあることではないのです。アニメや漫画でも見たことのある題材でしょうから、読書とは到底縁のない星野さんでもご存知のはずです」

 まずわたしはスプーンで最上部のマーマレードクリームをひと掬い、口に運ぶ。

「他人が寝ている時に見ている夢の中に、自分が潜り込む――こんな話、どこかで星野さんも見たり聞いたりしたことがあると思います。でも通常、人の夢に入るなんて意図的にできるものではありません」

 マーマレードクリームは一言で表せば甘酸っぱかった。いや、甘さよりも酸っぱさの方が勝っている。

「しかしそのような芸当が星野さんにはできるのです。星野さんはその能力を持った選ばれし人間だとも言えましょう」

 そこに柿の種のカリッとした食感と塩辛さが入り混じり、なかなか悪くない。ふざけたメニューだとは思ったけれど、甘さ、酸っぱさ、塩辛さの三者が見事なハーモニーを奏でている……!! 本社の社員が考案したのだろうが、なかなかいけていると店員を褒めたい気分だ。

「星野さんはその能力を使い、松本大輔くんの夢の世界に入り込み、松本くんの無意識の世界を覗き見たというわけです。それゆえ、あなたが夢で見た映像は、現在の松本くんの何かしらの心理状態を反映したものである可能性が非常に高いのです」

 でも勝負はここから。今食べたのはあくまで最上部のクリームでしかない。

 つぎは、イタリアンの要素をどう見せてくれるかだ。わたしはスプーンを次なる層へと沈めた。



「そして、あなたがこの能力を今年になって突然手にしたのには、私の影響があることは否めないでしょう。簡単に言うと、私の能力があなたに何かしらの原因で転移してしまったのです。ひょっとするとそれは私が星野さんに並々ならぬ愛情を感じているから、かもしれないのですが」



「え、今なんてった?」

 わたしはぴたりとパフェをすくうスプーンの動きを止めた。幻聴や勘違いでなければ今小神はものすごく不快な一言を口にしたような気がするのだが?


「ここでやっと私の発言にまともにリアクションをするなんて、やはり星野さんは私に関心がおありなのでは?」


「なわけないです!」



 たとえ冗談だとわかっていても、額にぷつぷつと嫌な汗がにじみ出てくる。じりじりと、顔が熱くなるのがわかった。こんなことで勘違いなんてされて学校中で「星野さんは私に恋をしているようです」だなんて吹聴されてはたまったもんじゃない!