――なんてことは、冗談だ。


 いくらなんでもこのご時分、照明のない公園というものはない。だから、わたしにははっきりと見えている――バットを両手でしっかり握りしめ、足を踏ん張り、素振りする、松本大輔の姿が。

 バットのグリップの部分を右手で握り、何度か振り子のように膝の前を行き来させ、それから右手の上の部分に左手を添え、左肩の上にバットを構え、すばやくバットを出し、右肩から背中へと振り切る。

 わたしと出席番号たったひとつ違いの松本くん。

 松本くんは公園で夜も素振り。

 一方わたしは夕食まで眠り、そして夜のコンビニで新発売のアイス。

 出席番号はたった一の差なのに、これほどまでに人間として差があるなんて。

 背中まで振り切ると、再びバットを左肩の上へ戻し、同じようにバットを振り切る。

 その様子に、わたしの目はどういうわけか、釘づけになる。アイスを手に持っていることも忘れるほど、素振りの様子に熱中する。

 見つめているうちに、わたしは段々といても経ってもいられなくなる。

 今すぐ足を上にあげ、家に向かって全力で走り、がむしゃらに今やらなければならないことに取り組まなければならないような気になって来る。

 でもその一方でわたしの身体は動かない。わたしの身体――特に目は、いつまでも松本くんの素振りの様子を見ていたいと思う。彼の全力のスイングを、一回でも多くこの眼に焼き付けたいと思う。

 家に帰りたい、でも帰りたくない――そんな気持ちと身体の狭間に立たされているうちに、ふと松本くんがスイングを止め、ゆっくりとこちらを振り向いた。