――覗き見。

 その言葉に反応せずにはいられなかったのだ。

 実際にわたしが今行っているのは、意図的ではないにせよ、他人の夢の覗き見なのだから。

 ちょっと待って、言い訳させて――わたしがそう思わず口にしそうになった矢先、夢の主がこう告げた。

「わざとではないのです、比奈さん」

 小神の声で夢の主は告げる――ということは、今宵わたしが覗き見ているのは、どうやら小神の夢らしい。

 思わず心の中で嘆息した。

 何が楽しくて昼も夜も小神に関わらなくちゃいけないのよ。

 ところで、〝比奈さん〟って誰だ?

「小神君、あなたは自分の能力を使って他人のプライバシーを侵害しているのよ? その罪の重さ、あなたならわかっているはずよね?」

 女子生徒がわたしに――いや、ここでは小神に向かって、というのが正しいのだけれど――告げる。

 小神のことを「小神君」と呼んでいる女子生徒が〝比奈さん〟であり、また小神を「君」付けで呼んでいることからすると小神と同級生、あるいは小神より年上であろうことが察せられた。

 直感的にわたしは小神の同級生だろうと判断したけれど、それはあくまで根拠のない直感レベルでの話だ。

〝比奈さん〟は、今にも泣き出しそうな顔つきだった。

 目は赤くはれているし、言葉も震えている。

 視線も俯きがちで、決して小神と正面から目を合わせようとはしない。

「比奈さん、私はあなたの力になりたいのです」

 小神が口にしたその一言でわたしの記憶が呼び起こされる。

 わたしが夢を覗き見るこの能力を手にする以前、この能力は小神が持っていたのだった。

 そして小神の能力がいつしかわたしに転移したのだと。

 確か小神は以前、ファミリー・レストランで話した際、こう言っていた。



――星野さん同様、私もこの力を高校一年の時にある人から移されたのです――ちなみに女性です。