女は、ぽつり、とつぶやく。店内に流れる陽気な音楽がその声をかき消す。こうして、誰かの声は世の中のどこかに消えていく。
「死にたくないより、死ななきゃが勝るときがあるのよ」
「はあ、そうっすか」
至極、興味のない話だ。ただの客に俺は店員以外の対応をする気はさらさらないのに。
「だれも助けてくれない。死んだ方がマシだって揺らぐ気持ち、わからないでしょ」
ぽたぽた、涙を流す客。俺はため息をつきながら、引き出しのなかに入っているお弁当類につけるおしぼりを取り出す。
それを客に手渡しながら、口を開く。
「死んだ方がマシっていう思考が謎極まりないっすよね。死んだこともないのに、それを比較対象にもっていくあたり、人間の浅はかな思考回路にむしろ鳥肌っすよね」
客は少しだけむっとする。が、俺からおしぼりを受け取ると、小さく笑った。
自暴自棄で投げやりな先にある、かすかな余裕。

