ちゃんとお礼を言えなかったな。

あとで改めて言うのもおかしい気がするし、どうしよう。


「おい。何やってんだよお前は」

「え? あ、何?」

「あれほど俺が隙を見せるなと何度も何度も――」

「そうだ! これ、一ノ瀬くんに!」


説教が始まる予感がしたので、反射的に持っていたお弁当を一ノ瀬くんに押し付けた。


「俺に何……って、弁当?」

「一ノ瀬くんに、作ってきたんだけど……」

「作ったって、佐倉が? 俺に?」


なぜ、という一ノ瀬くんの心の声が聞こえてくる。

顔が熱くて、いまにも逃げ出したくなったけど、ぐっと堪えて正面から彼を見つめた。


「いままでのお礼っていうか……ごめん! 京子さんがお弁当作り忘れたんじゃなく、私がそうしてくれるように、京子さんにお願いしたの!」

「何でわざわざそんなこと……」