これを聞いた時、ちょっと意味がわからなかった。


裏切るも何も、私は相手の顔も、名前も、存在さえも知らなかったのに?

私は知らないうちに、誰かを裏切っていた?


混乱しそうになった私を支えてくれたのは、やっぱり彼だった。



「ストーカー野郎の言うことに耳を貸す必要はねぇよ。忘れろ」


一緒に来てくれた一ノ瀬くんが、私の手を握ってそう言ってくれたから、私は素直にうなずくことができた。


自分でも甘えてるなと感じてはいた。

でも、いまだけ。あとちょっとだけ。

そう言い訳をして、一ノ瀬くんのくれる優しさと温かさを、胸に沁みこませた。