「今日、寄り道ナシな。真っすぐ帰るぞ」


なんとなく、一ノ瀬くんが本当に言いたかったことは、これじゃないんだろうなと思った。

でもそれには気づかないふりをして、小さくうなずく。


「うん。わかってる」


小鳥たちと特に約束もしていないから、そのつもりだった。

天気も悪いし、おとなしくしていよう。


「お前さ」


一ノ瀬くんが何かを言いかけて、けれど言葉は続かず、開いた口が閉じられていく。

つい目の前の薄い唇をじっと見つめてしまい、慌てて視線を落とした。


あの唇で森さんとキスをしたんだ、なんて考えそうになった。

朝から何を想像しようとしてるんだ、私。


頭に一ノ瀬くんのため息が降ってきたけれど、顔を上げられない。

そのままお互い、駅に着くまで無言で電車に揺られていた。