どうして佐倉が不機嫌になったのか、俺にはさっぱり見当がつかない。

別に何かしたわけじゃないと思うけど、どうだろう。

俺は女の機微みたいなものには疎い自覚があるから、何もしてない、と断言できないのがつらいところだ。


いまだに微妙に避けられるし、春陽には「ざまぁ」って顔をされるしで、俺もイライラしている。

やっぱり好きな相手につれなくされるのはへこむ。


「どうした一ノ瀬。鉄仮面とか言われるお前が百面相して」

「はあ? 何言ってんだよ」

「だってお前、珍しくいい感じに笑ったかと思えば、次の瞬間にはムッとして、いまはため息ついてるし」


高橋に指摘され、自分の顔をさわる。

笑ってた? 俺が?

ため息もついてたか?


自覚はないが、だだ洩れということか。

恥ずかしい奴、俺って。

女ひとりに振り回されている自分が滑稽だった。