「嫁の消息は相変わらず、わからないんだけど、まぁいろいろわかって来たこともある。こんなことを君に話すのは、どうかとは思うけど、どうやらアイツ、出会い系サイトを利用していたらしい。」


「えっ?」


あんな小さい子がいるお母さんが、出会い系サイト・・・?私は信じられない思いで、近藤さんの顔を見つめる。


「やっぱり、異動で俺の出張が増えてからのことのようだ。子供が幼稚園に行ってる間に、男と会ったりしていたみたいで、目撃した人が何人かいる。」


「・・・。」


「恥ずかしながら、俺は全く気が付いていなかった。まさか自分の妻がそんなことをしてるなんて・・・想像すら出来なかった。」


それは、そうだろうな・・・。


「お前がしっかり愛してやらなかったからだって言われれば、確かにそうかもしれない。でもそんな倫理観も何もない娘を育てたのは誰だって、言いたくもなるよな。」


「奥さんのご両親は、このことをご存じなんですか?」


「いや。言っても信じないだろうし、正直、言えねぇよ。こんなこと・・・。」


そう言ってため息をつく近藤さん、そんな近藤さんに私は掛ける言葉もない。


「スマン。本当に耳汚しの話を聞かせてしまった、忘れてくれ。」


なんとも言えない空気が、私達の間に流れる。それを振り払うように、私が出口に向かおうとした時だった。


「えっ?」


突然後ろから、私は抱きしめられ、固まってしまう。


「近藤、さん・・・。」


「俺が、俺が何をしたって言うんだ。俺はただ家族の為に、一所懸命に働いていたんだ。嫁さんのことだって、精一杯愛してきたんだ。これ以上、俺にどうしろって言うんだ。どうしたらよかったんだよ・・・。」


そう言って私の肩を抱きしめ、背中に額を付ける近藤さん。いけない、こんな事を許しては、私はそう思っていたが、なぜかその腕を振り払うことが出来ない。


どのくらい、そうしていたのだろう。このままでは、と私がさすがに焦りを感じて来た頃、ゆっくりと私の身体は、近藤さんから解放された。


「近藤さん・・・。」


「スマン。今日の俺はどうかしてる。桜井さん、もう君をこの部屋に呼ぶことは、絶対しない。許してくれ。だから・・・これからも仕事場で会ったら、今まで通り、笑顔を向けて欲しい。頼むな。」


「はい・・・。では、失礼します」


近藤さんの顔を見ることが出来なくて、私は振り返ることなく、そのまま部屋を後にした。