「それで、どっちを選んだの?」


「えっ?」


「桜井さんと前の会社の可愛い後輩ちゃんと。」


唯にそう聞かれて、俺は驚く。加奈のことはともかく、なんで三嶋のことまで知ってるんだ?だが、それを問いただしても、しょうがないと思った俺は素直に答えた。


「三嶋は僕にとって、そんな対象じゃないよ。」


「そっか・・・やっぱりね。」


頷く唯。


「ソウくんは高校の時から、ずっと好きだったもんね。桜井さんのことが。」


「唯ちゃん・・・。」


俺はまた驚かされる。


「だって、自分が好きな人が、誰を見てるかなんて、一番敏感に感じることだもん。」


あなたの魅力に気付いてたのは、唯さん1人・・・加奈の言葉が甦る。


「でもあなたのハートを先に射止めたのは私、だったはずなんだけどな・・・。」


そう言うと、唯は寂しそうに笑った。


「私の負け。そう認めるしかないね・・・今は。」


「今は・・・?」


だけど、その唯の言葉に、俺はまたまた驚く。


「これで双方1回ずつ、振られて、おあいこ。恨みっこなし。だけどね、ソウくん。」


唯は俺を真っ直ぐに見たまま、言う。


「私は一度あなたから離れて気付いた。私には、私が幸せになるには、ソウくん、あなたが必要なんだって。」


「・・・。」


「たぶん・・・あなたもいずれ気が付くと思う。自分が本当に一緒にいるべきなのは、誰なのかって。」


「唯ちゃん。」


「今は、唯の奴、負け惜しみで何言い出してるんだって、呆れてるでしょ。それは仕方ないけど、でもね、ソウくん。桜井さんは本当に一生、あなただけを見ていてくれる人だと思う?だいたいあの人は、あなたのこと、本当に好きなのかな?」


「いい加減にしろ!」


ついに我慢出来なくなって、俺は大声を出してしまう。当然店内の注目を浴びてしまうが、気にせずに俺は続ける。


「いくら唯ちゃんでも、それ以上、バカなことを言うんなら、許さないぞ。」


本当に唯を殴りたいくらいの怒りを感じながら、俺は唯を睨むように見る。


「わかった。今日のところは、もう、おとなしく消えます。ソウくん、あなたとは同じグループ企業の仲間なんだから、これからもよろしくね。」


そう言って、笑顔を見せると、唯は店を出て行った。


(唯、君はいつからそんな悲しい人に、なっちゃったんだ・・・。)


あまりにも後味の悪い別れ。俺の中の怒りは、悲しみに変わって行った。