「そう言えば、さ・・・。」


ふと、我に返ったように、照れ臭げに沖田くんが口を開いた。


「僕ばかり、1人で熱く語っちゃったけど・・・桜井さんも僕に話があるって言ってたよね。こんな後で、なんなんだけど・・・どんなご用件、かな?」


「バカ。」


思わずそう口走ってしまう。


「えっ?」


「照れ隠しのつもり?」


「桜井さん・・・。」


「せっかく、あんなに一所懸命、思いを伝えてくれたのに、やっと好きだって言ってくれたのに・・・台無しじゃない。」


その私の言葉に、沖田くんはバツ悪そうにうつむいてしまう。


「でも仕方ないか、それが沖田総一郎なんだもんね。」


でも、私がそう言って笑顔を送ると、ハッと顔を上げてくれる沖田くん。


「真面目で、カッコ良くて、優しくて・・・本当は女の子にモテモテでも不思議じゃないのに、そんな自分の魅力に全然自分では、気が付いてなくて・・・自分にいつも自信が持てなくて、損ばっかりしてて・・・。でも何事にもいつも全力投球なあなた・・・。ごめんね、沖田くんがグラウンドにいる時には、そんなあなたの魅力には、気が付けなかった。気付いてたのは白鳥唯さん、ただ1人。そんな唯さんに、後れを取ったのは、仕方ないことだと、諦めるしかなかった。」


「・・・。」


「その唯さんとあなたが別れたと知って、チャンス到来とばかりに告白したけど、見事玉砕。あなたはさっき、唯さんに住む世界が違うって言われたのが、ショックだったって言ってたけど、私もあなたに『恋愛は身の丈に合った人とする』って言われて、かなり凹んだ。なにそれって、それだったら顔が好みじゃないとでも言われた方が、よっぽどマシだよって。」


「すみません。」


沖田くんはそう言うと、本当にすまなそうな表情になる。


「だけど、高校卒業してからは、全然会う機会がなかったのに、それがきっかけになったかのように何度か会えて、やっぱり縁あるのかな、とか勝手にいい方に解釈して、やっと付き合い始められたのに・・・。」


ここで私は言葉を切る。


「沖田くん。」


そして、1つ大きく息をすると、私は覚悟を決めて言った。


「今日、私があなたにお話したかったことは1つです。でも、それはあなたが先に言ってくれた。嬉しかった、でも、私はやっぱりあなたに聞かないわけにはいかない。」


今日は逃げない、悠とそう約束したんだもん。私は思い切って言った。


「私はあなたが好きです。本当に好きなんです。だけど・・・私にはあなたを裏切った事実がある。あなたがもういいと言ってくれたとしても、その事実は絶対に消えない。それでもあなたは・・・私を選んでくれるの?あなたが忘れることが出来なくて、苦しんで来た唯さんが帰って来てるのも聞いた。あなたのことを一途に想ってる三嶋さんもいる。それなのに、あなたはさっき、私に好きだと言ってくれた。本当にそれでいいの?」


そう言って私は、沖田くんを見た。沖田くんの返事を待った。見つめ合う私達。


「はい、それでいいんです。僕の心の中にいる人は、君だけ。桜井加奈だけだから。」


そう言うと、沖田くんはこれ以上ないんじゃないかと思うくらいに素敵な笑顔を私にくれる。


「もう一度、言わせて下さい。好きだよ、加奈。」


その言葉と笑顔に吸い込まれるように、私は彼の胸に飛び込んでいた。


「総一郎。」


そう呼んだ私を、彼は最初はそっと、やがて強く抱きしめてくれる。そんな彼の胸の鼓動を感じて、私の胸の鼓動も跳ねる。


今の私達には、もう言葉はいらなかった。