「噂には聞いてたけど、その子、全然クラスメイトと交わらないんだよ。なんか、そういう交流を拒否してる、というより諦めちゃってる感じで。どうしてなのかなぁ、と思って見てたんだけど、声かける勇気もキッカケもないまま、時は過ぎて行った。」


「・・・。」


私は言葉もなく、沖田くんの独白に聞き入ってしまっている。


「そして、迎えた高校最後の体育祭。そこで彼女は思わぬ活躍を見せた。クラス対抗リレーの代表に選ばれたのも凄いと思ったけど、アンカーになって、現役の陸上部員を競り落として、クラスを優勝に導いてくれたのは、嬉しかったと同時にビックリしたなぁ。勉強出来るのは知ってたけど、まさかスポーツまで得意だったとは・・・まさにおみそれいたしましたってとこだよね。」


沖田くん・・・。


「すっかり興奮して、塚原誘って、彼女に声掛けに行った。前はよく練習見に来てくれてたよね、なんて言っちゃって、やべぇ俺ストーカーみたいに思われちゃったかなとか、あとで慌てたりしてさ。さっきまでの君の姿を見て、そんなことを思い出してた。懐かしいよなぁ。」


そう言って、笑顔を見せてくれる沖田くん。でも、ということは、沖田くんはそんな前から、私を意識してたってこと・・・?


「勉強も出来て、スポーツも得意で・・・そういう人もやっぱりいるんだなぁと思ってさ。まぁ自分には手の届かない人だって、その時に思ったから。その思いはずっと変わらなかった、僕の中では。」


「・・・。」


「だから、去年、付き合い始めた時も、おっかなびっくり。腰引けてたよね。そんな僕の態度に、桜井さんが失望したのは無理もない。でも・・・。」


ここで、一瞬躊躇ったように言葉を切った後、沖田くんは1つ息をついて、また話し始めた。


「やっぱりショックだった。相手が既婚者だったことも含めて、そりゃないだろうとは正直、思ったよ。」


そう言った時、沖田くんの表情から、笑みが消えた。それを見た私は、また俯いてしまう。


「だけど、それを今更言っても仕方がない。とにかく今日、わざわざ僕に会いに来てくれた君の誠意は受け取っとく。だから・・・これであのことは全部終わりにしよう。」


そう言うと沖田くんは、私に背を向けて歩き出した。その後ろ姿を私は、黙って見送るしかなかった。