「私は、あなたを裏切りました。なのに、あなたも、私を裏切ったと思い込んでたから、大した罪悪感も持たずにいました。そしてあなたが私の為に起こしたに違いないトラブルの挙げ句に、仕事を辞めなきゃいけない立場になっても、何も出来なかった。全部私がまいた種なのに・・・ごめんなさい・・・。」


私は頭を下げたまま、そう言った。和樹さんを愛したことに悔いはない。だけどその結果、沖田くんをどれだけ傷つけ、苦しめてしまったか。そのことについては、悔やんでも悔やみきれない思いで一杯だった。


謝って許されることではない。だけど、今の私に出来ることは、こうやって沖田くんに謝ることだけだった。涙が止まらなかった。


「桜井さん、もういいよ。」


やがて降って来た沖田くんの声。だけど私は頭を上げることが出来ない。


「今日は僕に会う為に、ここに来たんだろ?僕と話す為にここに来てくれたんだろ?。だったら、もう・・・僕の顔を見てよ。」


その言葉に私は少し頭を上げて、改めて沖田くんの顔を見た。そんな私に、沖田くんは1つ頷くと


「随分減っただろ?ギャラリー。」


「えっ?」


意外なことを言い出した。


「僕らの頃は凄かった・・・って言っても別に僕らじゃなくて、1年先輩の白鳥さん達が人気があっただけなんだけど。でもとにかく多くの女子がこのグラウンドを取り巻いてた。」


そうだったね・・・。


「みんな熱心にお目当ての選手を見つめ、応援してた。だけど、女子ばかりじゃなかったんだよ。見てたのは。」


「?」


「こっちだって見てた。今日はどんな子が来てるかなって。」


そう言うと、イタズラっぽく笑う沖田くん。


「あんなにたくさん女子がいたって、自分のことを見てくれてる子なんて、1人もいないのはわかってはいたけど、『おい、あの子、結構可愛いじゃん』なんて、練習の合間に、塚原達と話してたもんさ。」


なるほどね・・・。


「水木さんも岩武さんもよく来てくれてた。もっとも、僕は一応彼女達と3年間クラス一緒だったんだけど、全然彼女達の眼中には入らなかったみたいだけどね。」


そう言って、苦笑いの沖田くん。


「そんな僕がちょっと気になっていた子がいた。水木さん達ほどじゃなかったけど、1人でよく練習を見に来てた。1人で来てる子って、あんまりいなかったから、それが、僕がその子に気付いたキッカケかな。」


「・・・。」


「白鳥さんのファンだったその子は、来るとこのブルペンの横の時計塔の側から、先輩の投球練習を見つめていた。正直、ちょっと近寄り難い雰囲気を持ってたけど、でも決して冷たい感じじゃなくて、キレイな子だなと思ってた。声を掛けるなんて、おこがましくて、とても出来なかったけど、彼女が来るのが、段々楽しみになっていた。だけど、やがて白鳥さんがいなくなると、その子の姿も、グラウンドから見えなくなった。ま、仕方ないなとその時は思った。でも、それから半年後、高校3年になって、僕は初めて、その子と一緒のクラスになった。」