俺が何とも言えない気持ちで、派出所を出ると、近藤が待っていた。


「すみませんでした。」


俺は深々と頭を下げる。俺はこの男が許せなくて、猪突猛進してしまったが、暴力をふるってしまったのは、言い訳も出来ない。俺は間違いなく、近藤に救われたのだ。


「甲子園の優勝投手を犯罪者にはしたくなかった。同じ元高校球児としてはね。」


「えっ?」


「少し話さないか?今度は冷静に。」


そう言って、歩き出した近藤の後ろを、俺は素直に付いて行った。少し歩いて、俺達は小さな公園に着いた。暗い公園で男2人という図は、ゾッとしなかったが、今の俺はそんなことを考えてる余裕もなかった。


「近藤さん・・・。」


「言っておくが、恩を売ったつもりはない。君の言う通りだ。俺は彼女に酷いことをした。罰せられるべきは俺だ、君じゃない。」


「・・・。」


「それにしても、俺のことを、どうやって調べ出した?まさか彼女に直接聞いたわけじゃあるまい。」


「先輩に新聞記者がいて、その人にお願いして調べてもらいました。」


「おいおい、それこそ犯罪ギリギリじゃないか?」


「すみません。でもその先輩は何も知りません。だから・・・」


「まぁ、そういうことにしとこうか。いいピッチャ-だったなぁ、アイツも。」


「近藤さん、あなたは・・・?」


白鳥さんのことも知ってるような口ぶりに、俺は思わず尋ねる。


「俺な、埼玉青進のOBなんだ。」


埼玉青進高校・・・それは俺達が高校2年の夏の大会の決勝で対戦した相手。この試合で、俺は最後のマウンドを守り、チ-ムを勝利に導き、優勝投手となった。俺にとっては忘れられない野球選手としての勲章。


「俺はあの決勝戦、スタンドから後輩達を応援していた。だから、実は名刺を見た途端、君が何者かわかった。なぜ俺に会いにきたかも、なんとなく、な。」


「・・・。」


「言い訳にしか聞こえないだろうが、俺は決して、いい加減な気持ちで、加奈さんと付き合ったんじゃない。妻に逃げられ、その寂しさを埋める為の身代わりにするつもりもなかったし、まだ幼い我が子の母親役が欲しかったわけでもない。なら、なぜ彼女への想いを貫かなかったんだと言われれば、一言もない。ノコノコ何食わぬ顔で戻って来た妻が許せなくても、娘にとっては大切な母親。娘と加奈さんと天秤にかけて、俺は結局娘を取った。覚悟がなかった、さっき、君にそう言われて、耳が痛かったよ。」


そう言うと、近藤は顔を歪めた。