私の姿を見ると、三嶋さんはちょこんと会釈してくれる。私もそれを返すと


「久しぶり。」


「すいません。今の時期は特別忙しいとは聞いてるんですけど、どうしてもお話したいことがあって。少しだけ時間を下さい。」


「うん。ここじゃなんだから、外にちょっと行こう。」


こうして通用口を出た私達。私は喫茶店にでも入るつもりだったけど、三嶋さんは人気の少ない通りに入ると、ここでいいですと言って、立ち止まった。


「沖田さんのこと、ご存知ですか?」


「会社辞めるってこと?それなら昨日、彼からグループLINE入ってたから。ビックリしたよ。」


「お願いです、沖田さんを止めて下さい。」 


「えっ?」


「今は、まだなんとか辞表は、所属長の段階で止まってますけど、このままなら、沖田さん、本当に会社辞めなくちゃならなくなっちゃいます。」


必死になって、訴えてくる三嶋さん。だけど、全く状況が掴めない私は、戸惑うばかりだ。


「三嶋さん、ゴメンね。正直、話がよく見えないんだけど、沖田くんのことは確かに心配だけど、私が出しゃばることじゃないんじゃないかな・・・?」


「いいえ、あなたの責任です。」


「えっ?」


「沖田さんが会社を辞めようとしてるのは、あなたのせいなんです。」


そう言って、挑むような視線を私に向ける三嶋さん。彼女の怒りの理由がわからず、私は困惑する。


「落ち着いて説明して。なんで沖田くんが私の為に・・・。」


「沖田さんは・・・あなたの元カレに暴力をふるった責任をとって、会社を辞めようとしてるんです!」


三嶋さんの言葉に、私は愕然とする。


(近藤さんを殴ったのは、沖田くんだってこと・・・?)


にわかには信じられない話に、私が言葉を失っていると


「いったい、どこまで、沖田さんを苦しめれば気が済むのよ?あなたは!」


そう言って、三嶋さんは、うるんだ目に私への憎悪をあらわにして、私を睨みつけてくる。何も言えず、何も言い返せずに、私はただ、訳もわからないまま、立ち尽くしていた。