それから、私達はそのまま愛し合った。あの初めての時以来・・・。


なかなか2人きりになれない現実。和樹さんのマンションでのおウチデートの時に、絵里ちゃんが寝たあと、そんな雰囲気になったこともあったけど、私が結局拒んでしまった。


絵里ちゃんが隣の部屋にいることもあったし、何よりも奥さんと何度も愛し合ったに違いない寝室、ベッドで、和樹さんに抱かれることに抵抗を感じてしまったからだった。


そして、今日。デートの最後にこうなるということは、暗黙の了解だったと言っていい。


だけど、和樹さんは、その為のホテルではなく、窓からキレイな眺めが広がるシティホテルを用意してくれた。


だから何?結局最後は同じじゃん、と言われてしまうかもしれない。でもまだ朝を一緒に迎えることが難しい私達。誕生日という記念日だからこそ、そういう配慮をしてくれる和樹さんの優しさが、私は嬉しかった。


まだまだぎこちない私を優しくリードしてくれる和樹さん。その和樹さんに誘われて、私は徐々に高みにへと導かれる。


「加奈、愛してる。」


そう耳元で囁かれれば、私の心も身体も、否応なく燃え上がってしまう。


「私も愛してる、和樹さん。」


懸命にそう言葉を紡いた私の唇は、次の瞬間に和樹さんの唇に塞がれる。やがて侵入して来る彼の舌が、私の口の中を蹂躙する。


全てが夢見心地の私は、縋るように彼の背中に腕を回す。そうしないと自分の存在が確認出来なくなってしまう。


やがて、彼の動きが止まり、彼の身体が私の身体に覆い被さって来る。私は、彼を夢中で抱きしめる。


「ずっとこのままでいたい。」


「俺もだ、加奈は誰にも渡さないから。」


その言葉に酔い、彼の身体の重みを、ぬくもりを全身で感じていると、また唇が塞がれる。ただただ幸せだった。


そのあと、もう1度、愛を確かめ合った私達がホテルを出たのは7時過ぎ。帰宅の途につく、サラリーマンやOLで賑わう電車の中で、寄り添い、見つめ合う私達は、間違いなく周りから浮いていただろう。


横浜から新横浜まではあっという間。新幹線の改札まで、彼を見送る。


「今日は本当にありがとう。」


「いや、俺の方こそ・・・素晴らしい時間を過ごさせてもらった。」


また、見つめ合う私達。


「和樹さん・・・もっと一緒にいたい。」


「明日、子供を連れて、東京に帰る。そしたら、またすぐに会えるさ。」


「はい。」


寂しさを懸命に押し殺しながら、私は頷いた。


「加奈も気をつけてな、じゃ。」


「おやすみなさい。」


私に手を上げると、和樹さんは改札を通って中に入った。歩きながら、何度も振り返って、手を振ってくれる彼に、懸命に手を振り返しながら、なぜか私の目からは涙が。


(和樹さん・・・。)


やがて、彼の姿がホームに消えると、その涙は止まらなくなった。


和樹さんとサヨナラして、寂しい気持ちはある。だけど、ここまで涙が止まらない理由が自分でもわからない。


(もう和樹さんと会えなくなるわけじゃないのに・・・。)


そう思いながら、私は彼をホームまで見送らなかったことを後悔していた。