マサトの立ち姿しか、見えなかった。


(……あ、そうか。立ち位置変えたんだった)


なぜかホッと安心してしまうと同時に、台詞も蘇ってくる。


《あ！ 智くんおかえりなさい！》


《ゆっ、優子？！ なんでお前、まだいるんだ？ 帰るか先に寝てろって電話で言っただろ》



演技は思っていたよりも、滞りなく進んでいった。



《俺だって、結婚したいさ。けど、今は金銭的にも無理なんだ……。前も言ったろ、分かってくれよ》


音のひとつひとつが、体育館の天井に、入り口に、観客の鼓膜に吸い込まれていく。


《……じゃぁ私は、いつまで待てば良いの？ 貴方が出世するって、5年後？ 10年後？ いつまで待てば良いのよ！》


喧嘩のシーンなんて、まぁ直前までリアルに喧嘩していたせいか、我ながら熱のこもった演技が出来たと思う。