1時間ほど勉強を終えたところで、次は今日の本題に突入する。


「えーっと、化粧にはまず下地っていうものがあってですね……」

「下地? なんだそれ、初めて聞いた……」


化粧の手順を紙に書いて説明すれば、初めてだらけの単語をわざわざiPhoneで調べるトオルくん。

うーん、校則で禁止されてるから私も普段そんなに化粧しないし、自信はあまり無いんだけどなぁ。


「あ、って言うかさ、私に聞かなくてもクラスメイトの中に女装好きなハルカくんがいるじゃない? 初めから彼に聞けば良かったんじゃないの?」


ぽんっと手のひらを叩いてそう提案すれば、あからさまに嫌そうな顔をされてしまう。



「……あのさ、男ふたりで化粧の話してる時に母親が入って来たら、色々と誤解されてマズいだろ?」


確かに、部屋にふたりっきりでコソコソと女装トークで盛り上がっていることを知られれば、まずふたりの関係性を疑われるに違いない。



「そ、そうだね」

「まぁ仲良くなりたかったから、小羊じゃなくて天音さんを誘ったっていうのもあるけどな」


……この人はまた、いけしゃあしゃあとこんな台詞を言うんだから。


「またまた〜。お上手なんだから〜」


ハッハッハ、とおじさんのような笑いで交わせば、なぜかガックリと項垂られてしまった。


「……ここまで攻めても気付かないなんて鈍感だな、天音さんは」