食後は和やかな雰囲気のまま、ふたり並んで流し台に立って洗い物を済ませる。


一緒に食器を洗ってるだけで、まるで新婚さんみたいだなぁとか、妄想してしまう自分。


彼とはただのクラスメイトだけど、こんなイケメンの隣に立っていられるなんて、平々凡々な私にとってはご褒美に近い。


(……少しくらいの妄想は許していただこう、うん)


これがもし少女漫画だったら、ここから何かしら薔薇色な物語が始まるシチュエーションだろうし。


その時のトオルくんの表情は、今まで見たことのないくらい、穏やかな笑みを浮かべていた。


彼は不意に、ポツリと呟く。


「最近、家で上手くいってなくてさ。こんな風にゆっくり飯食べるのも久しぶりだったんだ。ありがとうな」


私は特に何も詮索せず、食器についた汚れをスポンジと水で綺麗に洗い流していた。


「そっか。ウチに来たことでトオルくんが元気になってくれたなら、良かったよ」


野ざらしの公園で雨に打たれていた、誰かの悲しみも洗い流してあげれていたら良いな……なんて、お節介染みた気持ちを抱きながら。


人はこうして、焦燥や不安から離れた場所で心休めることも、大切なんだなぁと思う。‬

‪そこから新たに生まれた学びや感情を拾い上げて、また前に進む力に変えることも、できるから。‬