「んー、出来るだけ早めが良いんだけど…」


彼は鞄からスケジュール帳を取り出し、カレンダーを手でなぞっていた。


「んーと…、明日、息子に会わせていい?…あと、引っ越しは今週の土日のどちらかはどう?……予定空いてる?」


「!?」


かなりの急な展開に、私は開いた口を閉じるのも忘れて瞬きを繰り返した。


(明日!?引っ越しはまだしも、明日!?)


今さっき過去の話をして、地味に脳内の半分を前のお父さんが占めているというのに、この状態でまた男の人に会わないといけないのか。


彼の息子さんに、また前のお父さんの話をしなければいけない気がするのは、私の考え過ぎだろうか。


「…あー、随分急なのね。…明日も多分、仕事は早く切り上げられるから大丈夫。週末は…、瀬奈、何か予定入ってる?」


お母さんもここまで急だと思っていなかったのか、自分のスケジュール帳を慌てて取り出して確認をしながら私に聞いてきた。


「入って、ないと思う」


私は、首を振りながら答えた。


「じゃあ、土曜日に家に来て家の構造を見てから、日曜日に引っ越しをするのは?」


キムさんの提案に、お母さんはあっ、という顔をして首を振った。