そして。



「……瀬奈ちゃんも碧さんも、大変な思いをしたんだなぁ…」


キムさんが意味のある言葉を発したのは、私達がまた押し黙ってから約5分後だった。


私とお母さんは、揃って真顔で頷く。


「瀬奈ちゃんも辛い思いをして……。でも、僕も僕の息子も、絶対にそんな事はしないからね」


叩いたり蹴ったり…、虐待は身体だけじゃなくて心にも傷を残すからね…、と正論を言うキムさんの言葉を聞き、私の視界が歪む。


「僕は、絶対に虐待なんてしない。もちろん、瀬奈ちゃんの肩も触らない。…瀬奈ちゃんと碧さんと、沢山楽しい思い出を作りたい」


「キムさんなら大丈夫よ」


真面目な顔のキムさんの隣で、これまた真面目に頷くお母さん。


「…わ、たしは……」


私は。


キムさんもお母さんも、虐待をせずに私と楽しい思い出を作りたいと、大丈夫だと言ってくれている。


なら私は、どうしたい?


「私は…、私も、キムさんの息子さんみたいに、楽しく、新しいお義父さんと過ごしたい…です」


そんな私の声を聞いたキムさんは、ふんわりと笑った。


お母さんの目から、涙が零れ落ちた。


(楽しい思い出を、作りたい)


「……私のお母さんを、よろしくお願いします」