慌てて彼から離れようとするのに、


「駄目、離れちゃ駄目。俺も泣いてるからそんなの気にしないで」


彼は、私の思っている事全てを知っている様な発言をするから。


「っ、……………!」


言葉に甘えて、いや甘え過ぎて。


私は彼の服を掴み、彼の肩に顔を埋めて泣きじゃくった。


頭の中では父親との嫌なあの思い出がいつもの様に首をもたげて、けれどその度にトユンさんが


「大丈夫だよ」


と言ってくれて。


だから私は遠慮せずに泣けたし、トユンさんが私を受け入れてくれた事に本当に感謝していた。




「………ねえ瀬奈ちゃん、約束しよう」


あれからどれ程泣いたか分からない。


けれど、何処と無くすっきりしたのは確かだ。


お互い鼻をかんで、真っ赤になった目に目薬をさした後、不意にトユンさんがそう言ってきた。


「…?約束……?」


彼が何を言いたいのか分からなくて、私が首を傾げて聞くと。


「うん、約束。…これからさ、悲しい事は半分こして、嬉しい事は2倍にしよう。意味分かるよね?」


(…つまり、何か悲しい事があればトユンさんに相談すれば良いって事だよね?)


(それに、この台詞って“約束”の歌の歌詞に出てきてる!)


少し考えた後、私は笑顔で頷いた。


「はい。……トユンさんも」


その瞬間、私の言葉の意味が分かった彼はまた目をうるうるさせて。


「うんっ…、約束!」


私と彼は、ベッドに座ったまま指切りをした。





人がこんなにも温かいなんて、知らなかった。