「………………?」


目を瞑っていても、陽の光は感じられる。


右手に微かな違和感を覚えながら、私はゆっくりと目を開けた。


目を開けた、という事は当たり前だけれど今まで目を瞑っていたという事。


つまり。


(私、朝まで寝れたんだ…!)


夜から朝までを寝て過ごせたのはおよそ1ヵ月ぶり。


今回も怖い夢を見て夜中に起きてしまったけれど、寝れた事に変わりはない。


(凄い……!)


1人で、数秒の間感動した後。


(あれ、そういえば、……トユンさん…?)


私の右手を握ったまま、床に座り込んで頭をベッドに乗っけて寝ているトユンさんの存在に気が付いた。


(何で此処で寝てるの?…それに、何で私の右手、)


そこまで考えた時、私の頭の中に今日見た夢の断片的な台詞が駆け巡った。


『…瀬奈ちゃんは、独りじゃないから。俺が傍に居るよ』


そうだ。


確か、夢の中で私はいつもの様にお父さんから虐待を受けていて。


抵抗するのも諦めようと思った時、あの人の声が聞こえたのだ。


空想上の兄の声が。


その人に、私は右手を強く握られたのだ。



「…違う、」


その人は、その声は、空想上の兄のものではない。


トユンさんの声だったのだ。


私は、彼に声を掛けられ、彼に手を握られ、そのお陰で眠れたのだ。


「………、ありがとうございます…」