『瀬奈ちゃんは、独りじゃないから。俺が傍に居るよ』


彼が言葉を発する度、目の前に居るはずのお父さんの気配が消えていく。


まるで、此処が私と空想上の兄の2人だけの空間であると錯覚してしまう。


『だから……瀬奈ちゃんなら大丈夫。大丈夫だよ』


彼の言葉は温かくて、この世界にあるどんな熱を出す器具よりも効果がある気がする。


身体の奥の奥の芯の、生まれてから1度も温まった事がなかった場所が、初めて彼という名の熱と触れ合って、反応しあって。


(っ………)


「っ…、お兄…ちゃ…」


私は、お父さんが居るのも忘れて声を上げた。


そして心の底から安心した私は、涙を流しながら右手を握ってくれている大きな手を握り返した。