(誰か、助けてっ…!)


バシンッ……


顔を叩かれる。


『いっ……!?』


余りの痛さに歯を食いしばった。


(何で、何でっ……)


『お前が悪いんだよ瀬奈!お前がちゃんとやってれば、こんな事はしなかったんだ、分かるよな!?』


分かりたくない、もう諦めたい。


助けが来るなんて、助けを求めるなんて、逃げ出すなんて。


そんな甘い考え、今すぐ止めたい。


誰も、信じられない。


『や、だっ……!』



その時だった。


誰かに、右手を握られたのは。


(あっ……)


怖くて怖くて、一瞬お父さんに掴まれたと思ったけれど。


『っ…瀬奈ちゃん、大丈夫だからね』


その優しい声で、私の手を固く掴んだ手はお父さんではないことが分かって。


『大丈夫大丈夫、瀬奈ちゃんなら大丈夫』


私の片手を優しく包んでくれるその手は、私にとって唯一の救世主の手に感じられた。


『あっ……』


余りの恐怖に、目も開けられないけれど。


(助けてくれるんだ……!)


(私の、お兄ちゃんだ…!)


お父さんと私だけの真っ暗な世界に、一筋の光が灯った。



けれど、安堵したのも束の間。


いつの間にか、右手の感触は消えうせていた。


(えっ、待って!)


(私の救世主は?…助けてくれないの!?)


『行かないでっ…!』


咄嗟に、声が出ていた。