「ひぃっ………!」


私の肩には、無くなっていたはずのあの包丁が置かれていた。


その刃は、紛れもなく私の首筋に押し当てられていて。


「お、とうさ……?」


6歳だろうと、私は今の事の重大さに気付かないほど鈍感では無い。


私の首に当てられた包丁と、それを持つ父親。


(何、するの……?)


「んだよ、出来たらさっさと運べよ!」


どうして、急に私に当たってくるのだろうか。


「…っ、うん」


自分の真横に包丁がある恐怖は、言葉では言い表せない程恐ろしいものだった。


(何で、何で……?)


(っ…)


時代劇のドラマ等で、武士が誰かを刀で斬るシーンがあるけれど、お父さんはそんな事はしないだろう。


私がただ、変に考えすぎているだけ。


子供心ながらに、何とか自分に言い聞かせた私。



けれど。


「さっさと運べって言ってんだろうが!お前の耳は無えのかよ!」


必死に自分に言い聞かせていたせいで、2つのコップすら持っていなかった私に、お父さんからの罵声が飛んだ。


「うっ……」


(怖いよぉっ……)


既に、私の唇はわなわなと震えていた。


「おい、聞こえねえのかよ!?まさか俺にやらせようとか思ってねえよな?」