(私の頭の部分だけ、足よりも位置が高いんだけど…誰か居るの?)


(いや、まさか。ね)


その素朴な疑問の答えが瞬時に浮かんでしまった私を、自分で殴りたくなる。


そして、そのままゆっくりと視線を上へ上げていくと。


トユンさんの、美し過ぎる寝顔が目に入った。


素朴な疑問の答えに、見事正解してしまった私。


「トユンさん…」


私の肩まで掛かっている大きめのコートは、トユンさんのものだろうか。


(これ、絶対輝星だったら喜びそう)


と思いながら、アイドルの義兄の優しさに思わず笑みが零れてしまう。


「トユン、さん…」


小声でそう言いながら、彼の力の抜けた片腕を邪魔にならない所に退かすと。


「……ん、うんっ…」


トユンさんは、少しだけ眉間にしわを寄せた後に首を傾けた。


そうする事で、彼の首筋の線が綺麗に見えて。


(はぁ…、アイドルの寝顔を拝めるって、最高…)


私は、寝たままの体勢でふっと笑顔を作った後、


「トユンさんのおかげで、怖い夢見ませんでした……ありがとうございます」


そう、呟いた。



何も知らない、トユンさん。


このまま、何も知らなくていい。


このまま私が眠らず、誰も私の実の父親の事を口に出さなければ。


それで、良いのだから。