約束~悲しみの先にある景色~

彼は、どうしても自分の名前を当てて欲しい様で。


「あ、えっと、…キム・……」


(輝星は何て言ってたっけ?)


考えれば考える程、何も出てこない。


「キムー?」


「ヒント、あげれば?瀬奈ちゃん、そんなにテレビとかを観ないのかもしれないよ?…それか、グループ自体に興味無いとか」


すると、急かす息子さんと焦る私を見かねたのか、キムさんが良い所で助け舟を出してくれて。


「ああ、そっか。…じゃあ、ヒントね。下の名前の最初の文字は、“ト”」


彼はヒントを出しながら、真っ白なヘアバンドの耳の部分を片手で弄った。


「“ト”……?」


私は必死で、輝星の台詞を思い出す。


『enjoy(楽しむ)担当の、キム・ト……』


「トビラ?」


「いやいや、それは無いでしょ」


お母さんに、苦い顔で突っ込まれた。


「ト…トンジル?」


間違っている事くらい分かっているけれど、ど忘れしているのだからこの位は目を瞑って欲しい。


「食べ物じゃないでしょ。瀬奈、本当に知らないの?」


隣の席で意外そうな顔をするお母さんに、私は逆に意外そうな顔を向けた。


「えっ、お母さんは知ってるの?」


「当たり前じゃない」


私の質問に、お母さんは分かり易くドヤ顔をして見せた。