約束～悲しみの先にある景色～

｢あのね、ここの3人は瀬奈が帰ってくる前に自己紹介を済ませちゃったの。だから、今から自己紹介をするのは瀬奈と彼の2人だけ｣


簡単に言えば大丈夫、自分の言える所までで…、と、彼女は私が無理をしないように気を遣ってくれて。


無理に前のお父さんの事なんて話したくない私はさっと頷き、キムさんの息子さんの胸の辺りーつまり顔は見ないでー自己紹介を始めた。


とは言っても、男の人と話すのは苦手な方だし、何か取り柄がある訳でもないし、場を盛り上げる様な台詞も考えつかないわけで。


｢分かった。……えっと、南 瀬奈です。中学3年生です。…あ、よろしくお願いします、｣


それにしても短過ぎる自己紹介を終えた私は、少し考え、間を開けて付け加えた。


｢…ずっとお兄ちゃんが欲しかったので、だから、｣


一応、少しは自分のモチベーションを上げようとして、キムさんの息子さんが自分の想像上の兄に重なった事を思い出して。


『仲良くなれたら、嬉しいです』


そう言おうとして、私はその言葉を飲み込んだ。


果たして、こんな私と彼が仲良くなってくれるという自信が無かったからだ。


明らかに不自然に言葉をとぎったのにも関わらず、キムさんの息子さんは、


｢おっ、本当？俺でいいなら、喜んでお兄ちゃんになるよ｣


と、隣に居るキムさんの腕を喜びからかばしばしと叩きながらそう言ってくれて。