約束~悲しみの先にある景色~

(あれ、)


何となく、その顔を見た事がある気がすると思った途端、


「瀬奈、こっちにおいで。自己紹介するから」


私のお茶を入れる為に冷蔵庫を開けたお母さんが、そう話しかけてきて。


そこでようやく自分がドアの前で硬直していた事を自覚した私は、


「あ、うんっ…!」


恥ずかしさで顔が赤く染まるのを感じながら、空いている席ーキムさんの息子の前の席ーに座った。


「瀬奈ちゃん、」


すぐにキムさんが心配そうに呼び掛けてきたけれど、私は控えめに笑って首を振り、自分は大丈夫だという事を伝えた。


私の分のお茶をテーブルの上に置きながら、お母さんも、


「本当に大丈夫?お父さんの事思い出したの?」


と、私にしか聞こえない程の小声で尋ねてきたけれど。


私は、キムさん親子の方を向いたまま微かにかぶりを振った。


「…うん、でも全然大丈夫」



まだ、お母さんもキムさんも何となく納得のいかない顔をしている。


けれど何が悪いかと言えば、忘れようとしたはずなのに些細な事でお父さんの事を思い出して、勝手に自己嫌悪に陥った私だから。


「あ、自己紹介って…?」


だから、私はこの変な空気を変えたくて、キムさんの息子さん1人だけに


「ん?」


という表情をさせたくなくて、さっさと話題を変えた。


お母さんは、すぐに説明してくれた。