約束~悲しみの先にある景色~

「瀬奈ちゃん、お帰りなさい。お邪魔してます」


「あ…。キムさん、こんばんは」


お母さんの時とは違い、一瞬にして顔が強ばってしまう自分を本気で呪いたい。


それもこれも全部、前のお父さんのせいなのだけれど。


昨日会ったはずなのに、あんなに話したはずなのに、まだ私の脳は新たな“お父さん”という存在を受け入れていない様だった。


反射的に俯きかける私に向かって、


「大丈夫だよ、慣れれば大丈夫。安心して」


と、キムさんはあの太陽の様な微笑みを向けてくれた。



「こんばんは、お邪魔してます」


続いて、彼の息子さんが笑顔で挨拶してきた。


「………こんばんは」


死ぬ気で表情筋を上げ、私は挨拶を返す。


明らかに不自然なのに、明らかに目を合わせないからおかしいと分かるはずなのに、そんな私を見た彼は、


「え、可愛いー!ねえアッパもそう思うよね?」


私の不自然な所は触れず、そう褒めてきた。


「え、可愛くないです、お世辞大丈夫です…」


そんな私の掠れた声は、


「うん、僕も思ってた」


と言うキムさんの声に掻き消される。


(なっ…!)


可愛くなんてないのに、可愛くないから虐待を受けていたのに、前のお父さんからは耳にタコができる程、


『お前が可愛い?…ふっ、お前鏡見てこい殺すぞ』