約束~悲しみの先にある景色~

流石にこれ以上遅れたら、お母さんに何を言われるか分からない。


(急げ急げ、ゆっくりし過ぎたっ…!)


私は、自分の家の玄関まで小走りで向かった。


時刻は、5時に近づいていた。



「っ、ただいまー」


家に着いて、昨日と同じ様に玄関の扉を開けると、


「えっ、そんな所まで行ってるの?」


「はい。でも、行くのは公演の為なので余り観光は出来なくて…。スケジュールも一杯一杯の時は観光すら出来ないので、今度プライベートで行きたいな、と思っています」


お母さんの驚いた様な声と、キムさんではない男の人の声が聞こえた。


(っ……)


どうやら、お母さん達には私の声が届いていない様で。


この状況でリビングに行っていいのか分からないけれど、とにかく行くしかない。


意を決し、


「た、ただいまー」


私は、皆の居る所に通じるドアを開けた。



「あっ、瀬奈!お帰りー」


テーブルには、手前側の右からお母さん、その正面がキムさん、その隣に彼の息子さんらしい人が座っていた。


お母さんが立ち上がり、キムさん達のコップにお茶を注ぎながらそう声を掛けてくる。


私は、笑ってそれに応えた。