「あ、あの…覚えてて下さりありがとうございますわわ私はこれでっ…」

走り去ろうとしたひなりの手首を、閨川の手が掴んだ。その反動で、ひなりは体ごと閨川の方へ引き寄せられた。

「全く……また足ひねるぞ?」

しょうがないな、と、閨川が笑った。
その笑顔は、あの時と全く同じだった。

「それにしても、成瀬があの時の子だったとはな。世間って狭いな。」

そう言いながら、閨川はひなりの手を放した。
手が離れた瞬間、ひなりはなんとも言えない複雑な気持ちになった。