「おい、ちょっと待ってくれ。それ、万馬券じゃないか?」


切符売場で、彰を引き止めるのは板垣だ。


「だからなんだ?当たるんだから、倍率の高いのに賭けるだろう」


「いや、でもどこで当たるか分からないのに有り金を全部1レースに注ぎ込むのはどうかと思うが」


「黙ってろ」


彰が睨みをきかせると、板垣がぐっと押し黙る。


買い慣れた手つきで馬券を買った彰に、私たちはついていく。


緑の芝生が鮮やかで、ゲートには馬たちが並んでいた。


「①-③だからな」


「あり得ない倍率じゃないか」


まだブツクサ言っている板垣をよそに、私たち女子は固まって身を乗り出す。


簡単な話、①と③が順番でゴールをすればいいらしいが、その確率はかなり低いということ。


こりゃ、応援するっきゃないよね。


横一列に並んだ私たちは、期待を胸にゲートが開くのを待った。


馬たちが一斉に飛び出す。


やっぱり予想通り、①と③は遅い。先頭集団の後ろを、なんとかついていっている感じだ。


「ほら、だから分散して買ったほうが良かったんだよ」


早くも諦めモードの板垣を「うるさい!」と叱り飛ばす彰は、ここからが勝負だと言った。


馬がカーブを曲がる。


それでも二頭は最下位か、どんどん遅れ出している。


なにも分からない私の目にも明らかだった。


もう今から、追い抜くなんてことできっこない。