「楽勝ー」


万年筆を手の上でくるくる回す。


これを売って、なんか美味しいもんでも食べよっかなー。


1人とかマジわびしいけど、高1ってこんなもんでしょ?


なーんもやる気おきないし。


とりま駅前のショップに売りに行こう。


さすがに、あんま近くじゃまずいもんね。


次の角を曲がって駅に向かおうとした、その時。


「お嬢ちゃん」


振り返ると、目の前に婆さんがいた。


【順弦堂】の婆さんが、濁った白眼をむき出しにして、私の手首を掴んだ。万年筆を握りしめている手首を。


ちょ、すごい力。なにこの年寄り?


細くて枝みたいな腕なのに、ぎりぎりと締め上げてくる。


「は、離してよ!」


体を引いてみたが、ビクともしない。


「ちょっと、お店で話そうか?」


「なんも話すことなんかないし!」


「お嬢ちゃんになくても、こっちにはあるんだよ?いいかい?」


ぐっと引き寄せられ、しわっしわの顔に脅されてお店に戻った。


警察沙汰とか、なんないよね?なんとか隙を見つけて__。


「逃げようったって、ムダだよ」


婆さんは、私をお店に押し込むと【閉店】の札を出した。


かちゃり。


鍵を掛けて、にんまり笑ったんだ。