あぁ、マジつまんない。


私__仁科光莉(にしなひかり)はため息をついた。


未知瑠はバイトで、亮平は部活ってどうよ?


まるで、私が暇人みたいじゃん。


なんか面白いことないかなー。


学校からの帰り道、私はいつものように仕方なく【順弦堂(じゅんげんどう)】に入った。


【順弦堂】は昔っからある商店街の文房具店だ。


駄菓子に群がるガキを突き飛ばし、奥の文具売場をうろつく。


ボールペンや消しゴム、ノートなんか売ってるけど、私の目当てはそんな安物じゃない。


あったあった。


ケースの中に鎮座している【万年筆】だ。


金になるのは、あれくらいしかないだろう。


さっと店内を見回す。


店には、ばあさんがレジ前に座っているだけだ。


監視カメラなんてあるわけないし、ばあさんは居眠りしている。


ていうか、ここは私が幼稚園の時から通ってんだよね。


小学生になる頃には、ガムとか飴とかパクってたし。


今まで1度も捕まったことはない。


目を閉じてても盗むことができる。


ノートを物色する振りをして、そっと手を忍ばせた。


万年筆をポケットに入れる。


用が済んだら、長居はしない。


そそくさと店を出ると「ありがとうね」とばあさんが言った。