「光莉」


名前を呼ばれると、クラスメイトの視線が私に集まる。


「な、なに?」


「私、お腹すいちゃった」


にっこり微笑む友美に、かっと体が熱くなる。


怒りと、それとは比べものにならないくらいの恥ずかしさ。


私は今、辱(はずかし)めを受けている。


無抵抗にいじめられるだけだった、カースト底辺の友美に【パシリ】にされようとしているんだ。


だからなにも喋らす、黙って立っていた。


「やっぱりこういう時は、焼きそばパンかな?」


「でも私、あんまり焼きそばが好きじゃないからメロンパンにしようかな?」


「飲み物はコーヒー牛乳にしようかな?」


1人で喋っている友美を、ただ黙って見つめる。


それが私に許された、唯一の抵抗か。


けれど次の瞬間、それもムダに終わる。


「あっ、爆弾おにぎりにする!爆弾おにぎり、光莉も好きでしょ?」


爆弾を強調する友美には、勝者の余裕があった。


従わないといけない。


クラスメイトに軽蔑されても、私は今から友美が欲するものを買ってこなければ。


まさに【犬】のように。


「やっぱりメロンパンでいいや。買ってきて。お金、立て替えといてね」


今すぐこの場から逃げたくて、急いで教室から出る。


クスクスという笑い声が聞こえてきた。


笑われてもいい。


【消滅】するより、マシなのだから__。